【社労士が教える】ハラスメント相談窓口を社内に設置する際の3つのポイント

ハラスメント相談窓口設置はパワハラ防止に向けた企業の義務

2020年のパワハラ防止法施行により、企業にパワハラ防止措置が義務付けられました(中小企業は2022年4月より)。パワハラ防止措置義務化により企業が行うべきことは様々ありますが( 【 社労士が教える】パワハラ防止法 中小企業が具体的に行うべきこととは )、その中でも大きなトピックの一つが、パワハラ相談窓口の設置です。

<パワハラ防止法 相談窓口設置の義務化内容>
 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • 相談への対応のための窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
  • 相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、相談者の心身の状況や、当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、パワーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、該当するか否か微妙な場合であっても広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること

ただし、相談窓口の設置が義務化されているのはパワハラだけではありません

セクシャルハラスメント(セクハラ)、妊娠出産育児介護関連のハラスメントについては、パワハラ防止法より以前に企業に相談窓口設置が義務付けられています。 パワハラ相談窓口はもちろん、いずれの窓口も設けていない場合も、この機会に「ハラスメント相談窓口」として、これらいずれのハラスメントにも対応できる相談窓口を早急に設置しなければなりません。

ハラスメント相談窓口設置の目的

ただ、ここで見逃してはいけないのは、「ハラスメント相談窓口さえ設置すれば良いのか」という問題です。中には、就業規則に「ハラスメント相談窓口を●●部に設置する」と明記されているにも関わらず、実際には窓口が設置されていない(担当部署に聞いても誰も知らない、当然誰が相談に乗るかも決まっていない、どのようなフローで相談対応に当たるのかも分からない)という事象もありました。

このケースは就業規則を改定しただけで形式すら整っていない状態ですが、仮に担当がきちんと決まっていたとしても、それだけでは意味を成しません。なぜなら、ハラスメント相談窓口設置の目的は、事案発生時に迅速かつ適切に対応するためであり、そのためには「ハラスメント相談窓口に被害者や目撃者等第三者から相談が上がってくること」「ハラスメント相談があった際には会社として適切に対応すること」が重要だからです。

<例:パワハラ防止法 事案発生時対応の義務化内容>
職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
  • 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること
  • 職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
  • 職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと
  • 改めて職場におけるパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること
  • 併せて講ずべき措置として、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置とその旨の周知、相談したことや事実確認等に協力したこと、労働局への相談等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、周知・啓発すること

この対応をハラスメント相談窓口担当者、ハラスメント対策担当部署、会社ができるからこそ、会社が「安全配慮義務」「職場環境配慮義務」を果たすことができ、従業員が安心して就業できる職場が実現できるわけです。

では、「ハラスメント相談窓口に被害者や目撃者等第三者から相談が上がってくること」「ハラスメント相談があった際には会社として適切に対応すること」を実現するために、会社はどのようなことに気をつけてハラスメント相談窓口を社内に設置すべきなのでしょうか。3つのポイントでお伝えしましょう。

ハラスメント相談窓口を社内に設置する際の3つのポイント

大原則として、従業員が相談しやすいかが重要

第一には、「従業員がハラスメントの相談をしやすいこと」が重要です(実際の相談状況のグラフはこちら)。全てのスタートは、「相談が上がってくる」ことなので、そこが実現できなければ意味がありません。会社が把握できないままハラスメントの問題が水面下で大きくなると、会社にとってはある日突然、メンタル不調や休職、退職が発生することになり、貴重な人材が失われてしまいます。また、職場の関係性の質が悪くなっていきますので、ミスコミュニケーションによるトラブルや手戻りの増加、言われたことだけこなすという従業員の作業員化など、生産性の低下がじわじわと職場を侵食します(メンタル不調と企業の利益率の関係はこちら)。他にも、被害者からの訴訟問題と大きな問題に発展し、経営を圧迫することもあり得ますし、最悪の場合は被害者の自殺なども考えられますので、パワハラをはじめとしたハラスメントの防止のためには、とにもかくにも小さな問題の内に従業員がハラスメント相談窓口に相談してくれることが重要です。そのためには

・男女や役職の有無など、複数の相談先がある

・ハラスメント相談窓口担当者に気軽に相談できる雰囲気がある

この二つが重要です。

男女や役職の有無など、複数の相談先がある

ハラスメントの相談と言っても、内容は、セクハラ、パワハラ、妊娠出産育児介護関連ハラスメント(マタハラ・パタハラ・ケアハラ)など多岐に渡ります。

セクハラや妊娠出産になると、異性よりかは同性の方が相談しやすい傾向にあります。そう考えると、男性・女性それぞれ相談に応じることができるようにしておき、相談者がどちらか相談しやすい方に連絡できるようにした方が良いでしょう。

パワハラになると、性別よりも立場(≒役職)が近い方が相談しやすい傾向にあるでしょう。あまり役職が違うと、自分の気持ちが理解してもらえないのではないかという心配があるかもしれません。特に上司側が被害に遭っている場合(当然ですが、上司が部下からパワハラを受ける場合も有り得ます)、あまり下の役職の窓口担当者には言いたくない、という気持ちが働く場合もあります。

そう考えると、社内にハラスメント防止のための相談窓口を設置する場合は、最低でも、男女でかつ管理職と管理職以外(ハラスメント相談窓口担当者2人ではなく、ハラスメント相談窓口担当者と窓口責任者でも可)という体制にしておくことが望ましいです。

少なくとも、ハラスメント相談窓口が一人だと、従業員にとっては選択肢がなく、相談されにくくなってしまいます。企業規模にもよりますが、できるだけ、相談対応者の選択肢が複数ある体制にしておくことが重要です。

ハラスメント相談窓口担当者に気軽に相談できる雰囲気がある

また、相談先が複数あればよいという話でも当然ありません。ハラスメント相談窓口担当者がどんな人なのか良く知らない、そんな状況で相談しやすいかというと、なかなか難しいのではないでしょうか。

ここで一つ、判例をご紹介します。ハラスメントが起こってないか、本社人事が支店を定期的に抜き打ち検査(従業員ヒアリング)もしていた企業でのパワハラ事案です。

支店でパワハラ被害に遭っていた従業員は、抜き打ち検査時に本社人事課長からハラスメントが起こっていないか聞かれたものの、初対面であることと報復行為が怖かったことから、被害の申告をしませんでした。以前からその支店ではパワハラが疑われる行為は合ったものの、他の従業員からもハラスメント相談窓口に相談がなされた形跡もなく、裁判所は、会社の防止対策は功を奏していないと判断、(他の根拠も総合的に判断し)会社の使用者責任が認められたのです。

いくら信頼できる窓口担当者であったとしても、従業員が安心して相談できる状態を作り出せていないと、相談は上がってこないということです。

ではどうすればよいのか。一言でいうと、自分がどんな人なのか知ってもらう機会を作りましょう。中小企業であれば、ランチタイムにいろんなグループに同席して雑談することも可能でしょう。現場を回って、仕事を邪魔しない程度に雑談ベースで何か困っていることがないかなど聞いてみるのも良いでしょう。他にも、朝礼でハラスメント防止に向けた取り組みを発表したり、社内報でハラスメント相談窓口担当者のリレーコラムを書いたりと、できることは様々あります。支店がいくつもあるような大企業では、前半の取り組みは難しいかもしれませんが、少なくとも、コラムを書くことはできます。

その地道な積み重ねが親近感に繋がり、いざという時の相談の心理的障壁を低くしてくれます。

ハラスメント事案発生時に適切な対応ができるか

ハラスメント相談窓口を社内に設置する際の3つのポイントの2つ目は、事案発生時に適切な対応ができるかということです。

いくら、ハラスメント相談窓口に相談が上がってくるようになっても、そこで適切な対応が出来なければ、「相談するんじゃなかった」「もう次から相談しない」「窓口に相談してもろくなことにならないから相談しない方がいいよ」ということになってしまいます(職場のハラスメントに関する実態調査報告書「パワハラ・セクハラを受けても何もしなかった理由」はこちら)。

では、適切に対応するためにハラスメント相談窓口は相談時に何をすべきかというと、以下の3つです。

傾聴

相談者に共感しながら話を聞くことです。共感というのは、相手の気持ちに寄り添って話を聴くことです。ハラスメント相談窓口に相談するということは、従業員にとってはかなり勇気が必要なことです。相談してくれてありがとう、上手く話せなくても大丈夫ですよ、そのような気持ちを言葉に表しながら、話を聴いてください。「それは辛かったですね」「〇〇な気持ちになられたのですね」そのように相手の気持ちに心を配る言葉を伝えながら、話を聴きましょう。

注意しなければならないのは、共感と同意は違う、ということです。

間違っても、「〇〇部長はひどい」と一緒になって怒ったりすることのないように気をつけてください。そもそも、一方の話しか聴いていない状態でハラスメントの判断はできるでしょうか。当然ながらできません。公平中立に話を聴く必要があります。行為者と言われる従業員に肩入れし、相談者に「あなたにも悪いところがあったのでは?」「悪気があってやったわけじゃないと思うよ」ということも当然NGですし、相談者に肩入れし、行為者面談において、「ハラスメントをしたに違いない」と思いながら話を聴くことも当然NGです。

 事実確認

通常のカウンセリングとハラスメント相談対応の一番の違いは、「事実確認」です。一般的な悩み相談はあくまでも個人の問題で、個人の感情や考え方、捉え方への気づきや整理、そこからの行動変容等により解決に向かうことが多いです。しかし、ハラスメント相談の目的は、個人の心持ちの変化ではありません。ハラスメントは個人の問題だけではなく、組織の問題でもあります。ハラスメントの事実があれば、行為者への処分を行い、再発防止に向けた措置も行わなければなりません。

そのためには、相談者・行為者・必要に応じて第三者にもヒアリングしながら、客観的な事実を押さえていく必要があります。事実確認が明確にできていないまま懲戒処分を行い、会社の処分が無効と判断された判例もありますので注意が必要です。ハラスメントに該当するか否かは、専門家も交えたハラスメント委員会等を開いて判断すべきですが、その判断の根拠となるのはハラスメント相談窓口が収集した客観的事実になりますので、窓口担当者は、事実確認のためにどのような内容をヒアリングしなければならないのか、しっかりと認識しておく必要があります。

 相談者の適切なフォロー

それから忘れてはならないのは相談者のフォローです。相談の申出があったのに放置するというのは当然ながらあってはいけないことですが、迅速に相談にのったとしても、その後どうなったか相談者に知らせなければ相談者はどう思うでしょう。その後どうなったのか?と気になるでしょうし、何か逆に自分が不利益な立場に立たされるのではと不安にも思うでしょう。

相談対応の最後には、その後の対応の流れを説明し、もし、その後の事実確認などに時間が掛かるならば、途中経過報告を入れましょう。 相談者の不安を少しでも軽減すること。これもハラスメント相談窓口担当者の重要な仕事です。

パワハラ防止法によるパワハラ防止措置義務化に対応するため、ハラスメント相談窓口を社内に設置する企業も増えましたが、相談窓口に任命して終わり、ハラスメント相談のマニュアル整備や、相談対応のための教育の機会を与えないままの企業も多い状態です。

ですが、企業のハラスメント対策にとって、ハラスメント相談窓口の責任は非常に大きいのです。社内に相談窓口を設置するのであれば、ハラスメント相談窓口の教育についても取り組みが必要です。

ハラスメント相談窓口の役割がどこまでかを決める

ハラスメント相談窓口を社内に設置する際の3つのポイントの最後は、ハラスメント相談窓口の役割をどこまでにするかを決めるということです。

会社によっては、一次相談までを担当し、後は役員が担当するという場合もあるでしょう。行為者面談・第三者面談も担当し、事実情報の収集もした上で、ハラスメント委員会に付託する、という場合もあるでしょうし、ハラスメント委員会にも出席して、ハラスメントか否かの判断にも関わるという場合もあるでしょう。それは企業規模やハラスメント相談担当者の専門知識にもよりますので、一概に何が正解かというものはありません。

ただ一つ、ハラスメント相談窓口担当者一人の判断ですべてが決まるということがないように気をつけるべきです。というのも、そもそもハラスメントの判断は単純ではありません。例えばパワハラ。適正な業務指導とパワハラの境界線はどう考えれば良いでしょう。パワハラ指針では以下のように定められています。

当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況業種・業態業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等を総合的に考慮して判断する

Aだからハラスメント、Bだからハラスメントではない、という単純な判断はできませんので、専門家も交えながら複数人で検討すべきです。また、そもそもハラスメントは組織の問題ですので、その重要な決定を担当者一人に任せるのは責任が重すぎます。ハラスメント委員会などを設置し、事案が発生した際は、企業トップ、ハラスメント担当部署責任者、専門家も交えた委員会で検討し、最終的に会社として対応を決定するようにしましょう。

そのためには、一次相談申し込みから事実確認、ハラスメント判断、相談者・行為者への対応、再発防止までの一連の流れを最初に決めておくことです。そうすれば、事案が起こった際に、慌てずに対応することができるでしょう。

まとめ

以上が、ハラスメント相談窓口を社内に設置する際のポイント3つです。お分かりいただけたかと思いますが、ハラスメント相談窓口は設置して終わりではありません。

相談が上がってきやすくなるよう窓口の広報活動も必要ですし、そもそも相談に乗ることのできるスキルが必要です。実際の相談があった際のフローも決めておく必要がありますし、ハラスメントの判断においては、専門家の助言も必要になってくるでしょう。

ハラスメント相談窓口担当者に研修を受けさせたい、ハラスメントの判断にあたって専門家の助言が欲しい、マンパワー不足や相談先の選択肢追加のために社外にハラスメント相談窓口を設置したい、そのような場合は、弊社で対応が可能です。無料ご相談も承っておりますので、どうぞお気軽にお問合せください。

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咲良美登理事務所 代表 咲良美登理

社会保険労務士。21世紀職業財団認定ハラスメント防止コンサルタント。中小企業を中心に、ハラスメント相談窓口サービスや窓口担当者養成講座の提供、事案解決サポートや人材育成研修など、ハラスメント対策を起点とした生産性向上のコンサルティングを行っている。
ご相談・お問い合わせ▶https://sakura-midori.jp/contact

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