部下の成長の機会を奪ってはいませんか?
日々、企業・団体様から、研修のご依頼をいただきます。研修を行う前には事前にヒアリングをさせていただくのですが、お話のなかで最近気になっていることがあります。

過剰な「肩代わり」が部下の成長機会を奪う?!
「パワハラと言われるのが怖くて、上司が適切な指導もできなくなっている」と、これまでも多く耳にしてきたのですが、最近は、それに加えて、上司が配慮しすぎることで、「部下の主体性発揮や成長の機会が減っているのではないか」と感じることが増えてきました。
例えば、Aさんに業務を依頼したものの出来栄えが悪く注意したら、Aさんの上司が、「そんな言い方をするとAさんが傷つくからやめてくれ、その仕事は自分が肩代わりするから」とAさんの仕事を引き取ってしまうといったケースです。
最近、このように上司・先輩が先回りして、部下の代わりに動いている様子をよく聞くのです。
もちろん指導の際には伝え方に配慮が必要ですし、パワハラは絶対NGです。仕事の依頼内容とAさんの能力が合致しているかも大切ですし、Aさんがメンタル面で不安定な様子であれば、上記のように上司が仕事を引き取るのもアリです。
ですが、メンタル不調が疑われるようなことがないにも関わらず、いつも部下の肩代わりをしていたら、部下は成長の機会を奪われてしまいます。
若手の成長意欲とどう向き合うか

パーソル研究所が発表した「過去6年間の変化からみる2022年の20代社員像」の調査結果によると、今の20代は、今後のキャリア形成を考えて自身を成長させてくれる会社を選びたいという意識が強まっているようです。若手は成長したい、キャリアアップしていきたいと前向きに考えているのです。
出典:株式会社パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」
人は何によって動機づけられるかを示したモチベーション理論「マズローの欲求5段階説」にも、成長に関連する欲求「自己実現の欲求」が含まれています。
【1階層目】生理的欲求
【2階層目】安全の欲求
【3階層目】所属と愛情の欲求
【4階層目】尊敬(承認)の欲求
【5階層目】自己実現の欲求
マズローの欲求5段階説では、下層の欲求が満たされると上層の欲求を求めるようになる、とされています。
非常に有名な説ですが、実はデータで実証されているわけではありません。なので、より現実的な視点から修正され、研究で実証されているアルダーファの「ERG理論」もご紹介しましょう。
アルダーファは欲求の次元を生存・関係・成長の3つにまとめました。マズローの欲求階層説と対応させると以下のとおりです。
【成長(Growth)欲求】:欲求階層説の「自己実現の欲求」
【関係(Relatedness)欲求】:欲求階層説の「所属と愛情の欲求」「尊敬(承認)の欲求」
【生存(Existence)欲求】:欲求階層説の「生理的欲求」「安全の欲求」
マズローの欲求階層説とERG理論は、下から上への一方通行なのか可逆性なのか、1つずつなのか複数同時があり得るのか、など違いはあるのですが、下の層から上の層に進む、というところは共通しています。
これらの理論を部下の成長促進やマネジメントに応用してみてはいかがでしょうか。
部下の成長を促進させる関わり方とは

先ほどの例でいえば、もしAさんにメンタル不調の懸念がなく、かつAさんに物理的に対応する余力があるのであれば、どうやったらできるかを一緒に考えることが、“心理的安全性が高い×基準が高い”関わりであり、成長を促す関わりです。上司・先輩が仕事を肩代わりしてしまっては、せっかくの成長の機会を逃してしまいます。
部下と一緒に考えるためには、まず、部下の生存欲求を満たすことが大前提です。ERG理論なら【生存(Existence)欲求】、欲求5段階説なら「生理的欲求」「安全の欲求」の部分です。
もし、長時間残業で36協定も守れていない、サービス残業が多い、休日出勤も多く平日は帰って寝るだけ、週末は体力回復に充てるだけで趣味やレジャーが楽しめない、という状況が常態化していたら、その環境は、部下の【生存欲求】を満たしていないといえます。
部下の【生存欲求】を無視して、「アットホームさや助け合い【関係欲求】」や「やりがい【成長欲求】」をアピールしても、部下は、「上司は何を言ってるんだ」と白けてしまいます。モチベーションを上げろ、成長しろと言われても無理があるわけです。
部下に成長してほしい、主体性を発揮してほしいと思うなら、そもそも物理的な就業環境が整っているかを、まず確認してみてください。
そのように、最初の階層を整えてから、次の階層である“心理的安全性が高い×基準が高い”関わりを深めていきます。皆様のなかには、若手の成長意欲が高いと言われても、「うちの部下はそうではないなぁ」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。ですが、それは、部下が今までの人生で成長を感じられるフィードバックを受けておらず、できること、できるようになることの喜びを知らない可能性もあります。
部下をよく見て適切なフィードバックとそこから始まる対話を大切にすれば、部下の成長意欲は少しずつ呼び起こされるでしょう。その積み重ねが、部下が生き生きと働き成長していくことに繋がります。
弊所では、部下育成のためのコミュニケーション研修も多くご依頼いただいています。貴社の課題感や状況を伺った上で、貴社に合わせたオーダーメイドの研修をご提案いたします。従業員お一人お一人が安心して能力を発揮し、上司も部下も、会社も従業員も生き生きと仕事がおできになるようにサポートをいたしますので、ご興味のある方はぜひお問い合わせくださいませ。
パワハラをはじめとしたハラスメント防止研修を実施したい、ハラスメントの防止だけでなく管理職の部下育成能力を向上させたい、社内のコミュニケーションを改善したいなどのご希望があれば、貴社の状況を細かくヒアリングさせていただいた上で、オーダーメイドの研修をご提案いたします。社内でハラスメントが起こっている、パワハラが怖くて管理職が適正な指導を躊躇している、ミスコミュニケーションによるトラブルが多発しているなどの課題を抱えておいででしたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

咲良美登理事務所 代表 咲良美登理
社会保険労務士。21世紀職業財団認定ハラスメント防止コンサルタント。中小企業を中心に、ハラスメント相談窓口サービスや窓口担当者養成講座の提供、事案解決サポートや人材育成研修など、ハラスメント対策を起点とした生産性向上のコンサルティングを行っている。
ご相談・お問い合わせ▶https://sakura-midori.jp/contact